2019-09-19

大切にしていること1 毎日を学びに変える「知的好奇心」を育む

入社して1年目のわたしは、3年生向けの読み物教材「なんで!?本」(今はタイトル変わってます)のチームに配属されました。初めて担当した特集は、3年生向けの「忍者特集」6Pでした。

テーマも決まっていなくて、好きなテーマで作っていいよ、とリーダーに言われたので、意気揚々と選んだのが「忍者」。幼少期に、魔法使いの次に憧れていたのが、何を隠そう忍者で、秘密を隠して生きている感じが最高に好きだったんです。

あまりにも好きだから、企画は一瞬でできました。そしたら一瞬でボツになりました笑 ボツ早かった!!!! あまりに早すぎて、当初の企画案がどんな内容だったのかも忘れてしまったけど、リーダーに言われたことは、鮮明に覚えています。

『「なんで!?本」は、雑学びっくり大紹介をする本じゃないんだよ。「すごーい!」「しらなかったー!」「まじびっくりー!」で終わってはいけないの。わたしたちは「学び」を届けている媒体なのよ。』

きっと忍者の雑学をひたすら紹介する特集の企画だったんでしょう。今のわたしでも、一瞬でボツにします。読者の得るものが、単なる知識ではダメなのです。そんなの5秒で忘れます。そして単なる知識はものすごいインパクトがないと、まったく面白くなりません。

「学び!?」

わたしはリーダーのフィードバックを聞いて、急速にモチベーションが下がりました。教育の会社に入っておきながら、勉強がとても嫌いだったんです。そもそもは出版社で雑誌が作りたかったのですが、なにせ勉強が苦手すぎて、興味の幅も狭く(同じ本を何度も繰り返し噛み締めて読むタイプ)、SPIとか筆記試験で全て落ちました。編集者に必要な基本的な資質に、「アンテナが高かったりフットワークが軽かったりすること」があると思うのですが、大学時代のわたしは、毎日友達の家でキムチ鍋をするだけの日々だったので、そんなもの皆無です。よく編集者目指してたよな……。唯一縁があり、拾ってくれたのが前職のベネッセだったんです。

「忍者っておもしろいじゃん。子どもにも人気のテーマじゃん。いいじゃん。ケチケチ!」 と新人のわたしは思いました。

でも、まさかそんなこと言えるはずもなく(小心者で)、そう思っても企画が通るわけではないので、忍者から得られる「学び」が何かを毎日真剣に考えました。

忍者を通して、わたしが、子どもたちに伝えたいことはなんだろう。

説教くさい読み物なんてまっぴらごめん。大人の「こういうのを伝えたいんだよね〜」という道徳的なメッセージがミエミエの読み物の気持ち悪さは、2歳からの本好きキャリアを持っているからこそ感覚的に知っていたし(でもそういうのを押さえて書いた読書感想文で評価もされてきたから感謝もしているけど)、踏み入れたくない領域でした。

悩みまくっているわたしに、リーダーはヒントをくれました。

「忍者のいちばんすごいなって思ってるところとか、驚いたところとかから、何か汎用的な学びってないの?」

そのとき忍者について調べていて、いちばん「へえ〜」と思ったのは、忍者が3歳から修行をしているということでした。指の力だけでお城の塀を登るから、指の筋肉(指に筋肉ってあったのね…というレベルだが)を鍛えるために、指だけで米俵を持ち上げたり、自分の身長と同じ穴をほって、そこからジャンプだけで飛び出す練習をしたり、薬の作り方や、月の満ち欠けによる夜の明るさの知識などを、口頭伝術で学んで覚えたり、「どろん!」と消える華やかなイメージだった忍者とはまるで違う、泥臭い姿に、そしてそれらの技術を3歳くらいから修行をして身につけるということに「すごいなあ」と純粋に思ったのです。

華やかな活躍の裏側には、絶え間ない努力がある。わたしがそのとき忍者から学んだことでした。華やかそうにみえる雑誌編集者の世界に入ったけれど、実際にはこれまで読んでこなかった難しい学術書や論文も含めて読み漁り、手を真っ黒にしながらラフを書く泥臭い現場で必死にもがく自分の姿と重なったのかもしれません。

わたしの最初の特集は「忍者のスゴワザ徹底調査!」というタイトルで、スゴワザの裏で驚くほど努力や修行をしているというネタを紹介する企画で無事に決済をもらいました。こうやって書くとありきたりな企画ですが、ここにたどり着くまでが長かった……。

そしてここにたどり着く過程で、わたしが得たことは「学びは、日常全てにあるんだぞ。見えないだけで」ということ。

教科書で勉強することだけが学びではないし、テストや受験のための勉強だけが学びでもない。ふだんの暮らしで気づき、発見をし、調べて、感動し、それを自分の言葉にして胸の引き出しにしまう一連の行動こそ、学びなのだと気付いたんです。この学びには「知的好奇心」という名前がついていました。

知的好奇心を持って世の中を見ると、すべてがわくわくキラキラします。毎日が発見だらけ、知りたいことだらけ。忍者の特集によって、わたしの中に眠っていた知的好奇心が目をさましました。作りたい特集だらけになりました。だって学びのネタは暮らしのすべての転がっているんだもん。「勉強」を毛嫌いしていたわたしが、フットワークの重かったわたしが、興味のある場所に出向き、セミナーや講演会に参加し、物語以外の本も読み、知らないことは調べ、人に会いに行き、なんでも勉強しくなる勉強したがりになりました。

知的好奇心は、自分の未来を切り開いていくエンジンになるものだと、わたしは信じています。わたし自身がそうだったように。

わたしが作りたいのは、funnyな体験ではなく、interestな体験である、と明確に自覚しました。

大人が上から教えるような教訓的な学びではなく、自分自身が心を動かし、好きだと思うものを、学びあるメッセージという形にかえて、子どもに届ける。そこに上下関係はなく、対等に「ねえ、こんなに面白い世界があったよ!きいてきいて!」という気持ちで、いつも企画やラフや原稿を書いています。

わたしが、エンタメの学び化(面白いことからメッセージを)、学びのエンタメ化(メッセージを面白く)にこだわっている原点がここにあります。

以来、わたしは3年に一度は、切り口を変え、メッセージを変え、忍者にまつわる読み物を作っています笑 「忍者を知れば歴史がわかる!忍者が忍術を使うワケ(小5)」とか、ブラックライトで照らす 「いくつといくつにんじゃかくれんぼブック(年長さん)」とか。

いつもお世話になっている校正者さんには、わたしが定期的に忍者の読み物を校正のご依頼をするので「忍者の子」として認識されているくらい笑

またそろそろ忍者作りたい……笑

おまけ…わたしがはじめて作った特集。↓

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